春の公園

今日、沈丁花が花開いた。高い香り。
梅も綺麗に咲いている。
関東は夜と朝はまだまだ寒いが、日中、風さえ
なければ、ひなたはホカホカ温かい。
 桜は種類が多い、毎年『おかめざくら』は、ソメイヨシノよりずっと早く、この時期に
咲く。濃いピンクの美しい花だ。
「ウグイスがいる」と母が言うので、よく見ると、おかめざくらの花を「メジロ」がついばんでいる。
「あれは、メジロよ」と私が教えると
「そんなはずない!だってウグイス色してるし!」と反発する。
いや、どう見てもメジロだろ。
メジロはウグイス色をしている。
母は
「ウグイスが梅の花を食べてる!」と叫ぶ。
「あれは、桜よ、おかめ桜」
「そんなはずない!だって桜は3月か4月に
咲くはずだし!」
いや、それソメイヨシノのことだろ。
 でも、なんだっていいんだ。
こうして、春の日に、公園のベンチに
に腰掛けて、のんびりと日向ぼっこしていられるなら。
お母さん、あなたは認知症で、わからないないかもしれないが、ここは浜町公園。
70年前、何千発もの焼夷弾で、何万人も
焼き殺された、虐殺の現場だ。
お母さん、その時、ここにいたよね。
お母さんは認知症
忘れたほうがいい事だってある。
お母さんは桜の向こうを指差して、
「あの銀杏の向こうの隅田川へ行かないと」
「行かないと?」
「死んじゃう」

「………」
お母さん、忘れていなかったんだね。